遙か7天地の白虎の結婚事情はどうなっているのか

こんにちは。兼続ルートの感想を書きたいのにAmazonで買った『直江兼続のすべて』と『直江兼続の新研究』がどちらも届かないので困っています。

時間つぶしがてら、今回はプレイしながら気になった「遙か7天地の白虎の結婚事情」について考えてみました。

遙か7の黒田長政直江兼続、史実ではとっくの昔に妻帯しているはずの二人の結婚事情は、遙か時空ではどうなっているのでしょうか。

※ゲーム本編(長政・兼続ルート)のネタバレを含みます。 

史実のおさらい

まずは史実をざっくりおさらいしてみます(太字だけ見てください)。

黒田長政プロフィール
永禄11年(1568)12月3日 黒田官兵衛の長男として誕生(ゲーム年齢+4歳

天正5年(1577)織田信長の人質として長浜へ(9歳)
天正10年(1582)冠山城の戦いで初陣(14歳)
天正12年(1584年)蜂須賀正勝の娘・糸姫と結婚(16歳)
天正15年(1587)秀吉に従い九州征伐に参加、のち中津へ移る(19歳)
天正17年(1589)家督相続、甲斐守に任官(21歳)
文禄元年(1592)文禄の役で朝鮮へ出征(24歳)
慶長2年(1597)朝鮮へ再出征、弟の熊之助が溺死長女菊姫が誕生(29歳)
慶長4年(1599)石田三成襲撃事件に参加(31歳)
慶長5年(1600)糸姫と離縁し、徳川家康の養女・栄姫と再婚(32歳)

※()内は満年齢。ゲーム年齢はそれぞれ-4歳してください。

初婚は16歳(ゲーム年齢では12歳!)の時で、まだ家督を相続する前ですから、お父さんの官兵衛の意向による政略結婚と思われます。相手の糸姫は当時13歳です。蜂須賀家は秀吉の家臣の家なので、秀吉との結びつきを強める意図があったと推定されます。

その後ふたりの間にはしばらく子どもが生まれず、結婚13年目にしてやっと長女の菊姫が誕生しますが、程なくして長政は糸を離縁(離婚)してしまいます。

これは関ヶ原の直前、会津征伐の真っ最中に、家康の養女である栄姫と再婚するためでした。つまり、初婚の時と同じく、今まさに天下分け目の大戦が起ころうという時に、徳川家との結びつきを強めようとする意図がありました。こちらも政略結婚です。

結婚は、家のためにするものだ」というゲーム長政の台詞が聞こえてくるようです。

これは当時としてはごく普通で、武家の女性が結婚相手を選べないように、武家の男性にも選択の余地はありませんでした。父・官兵衛には血の繋がった子どもが長政と熊之助の二人しかおらず、しかも熊之助は若死にしてしまったので、ますます長政本人が結婚するしかなかったのかもしれません。

兼続の方はどうでしょうか?

直江兼続プロフィール
永禄3年(1560)樋口兼豊の長男として誕生(ゲーム年齢+9歳
天正6年(1578)頃~御館の乱上杉景勝の側近として活動(18歳)
天正9年(1581)殺害された直江信綱の妻お船と結婚、直江家の婿養子に(21歳)

兼続の前半生については、確かな史料が少なく、元服も初陣も正確な時期は不明です。幼名は「与六(よろく)」といいますが、これは仮名(けみょう)といって大人になってから名乗る通称だとする説もあります(ちなみに長政の仮名は「吉兵衛」)。

彼はもともと上杉景勝の家臣であった樋口家の長男として生まれましたが、同じく景勝の家臣であった直江家の当主・信綱が殺されたため、信綱の妻であったお船の方(先代の直江景綱の娘)と結婚し、婿養子として直江家を継ぎました。

つまり樋口与六から直江兼続になった時点で彼は結婚しているはずなのですが、ゲームの兼続はどうやら独身のようです(後述)。ゲーム兼続は史実よりかなり若く設定されており、ゲーム内年齢12歳の兼続を24~25歳のお船の婿養子にするのは無理があったのかもしれません。おそらく通常の養子として直江家に迎えられた設定なのでしょう。

長政と同様、史実の兼続の結婚も政略結婚であったことは疑問の余地がありませんが、こちらは38年間の結婚生活の間、離縁することも側室を置くこともありませんでした。なお、お船との間には一男二女が生まれましたが、いずれも若くして病死しています。

ゲーム長政の結婚事情

ゲームの長政は、”カリスマ・ロード“らしく、関ヶ原で戦功第一の栄誉に浴し、その褒美として龍神の神子を家康の養女に入れ、自分の正室に迎えます。時系列は多少前後していますが、これが史実の栄姫のエピソードをなぞっていることは明らかです。

遙か7は乙女ゲームなので、何となくこれが長政の初婚のような気がしますが、テキストをよく読むと彼自身は一度もそうだとは明言していないように見えます(もちろんバツイチだとも言っていませんが)。このあたりは、史実との整合性を考えて、あえてはっきり描かずぼかしているのかもしれません。

個人的には、18万石の大名家当主が満27歳を超えて未婚のまま、というのはいささか不自然――当時の情勢からしても、ゲームの長政の性格からしても――なので、史実の糸姫に相当する人物と夫婦生活の実体がない結婚くらいは過去にしていた可能性があるのでは、と思います。ゲーム本編が始まる前に、何らかの理由でやはり離縁したものの、秀吉の私婚禁止令のためその後は独り身でいた、くらいのイメージです。

また、関ヶ原の論功行賞(ろんこうこうしょう)の場で、ゲームの家康は長政のかなり突拍子もない「養女」の話を割とあっさり受け入れてくれるので、それ以前から家康の養女を誰かしら妻に迎える予定があったのでは、とも思います。そう考えれば長政が神子を「その先は黙っていろ」と頑なに突き放す理由――天下人となるべき人の養女との縁談を断って、別の女と結婚するわけにはいかないので――も分かります。

もちろんそんな設定が公式から語られることは絶対にないでしょうし、全てはいちプレイヤーの妄想にすぎませんが…。

ゲーム兼続の結婚事情

史実の直江兼続について、江戸時代中期に成立した『常山紀談』はこう記しています。

長(たけ)高く、容儀骨柄並びなく、弁舌明らかに殊更大胆なる人なり。

(引用者訳:背が高く、礼儀をわきまえた振る舞いや人柄は他に並び立つ者がなく、はっきりと大胆な物言いをする人である

 「弁舌明らかに殊更大胆」という言葉の解釈はいろいろ可能だと思いますが、劇中の様子を見るに、これは「口が悪い」という意味であるようです。ゲームの兼続は毒舌家であり、そして設定上水瓶座なのもあって、ちょっと変わった人として描かれています。

兼続は共通ルート終盤で神子に「陥落」し、個別ルートに入るなり電光石火で婚約してしまいます。さらに彼は神子を自分の「正室」に迎えたいと言います。基本的に正室は一人しか持たないものなので、つまり兼続はこの時点で未婚です。対の八葉である長政の結婚が史実を踏襲していることを考えると、おそらくこれが初婚、かつ生涯唯一の結婚、かつ後にも先にも側室を置くことはないはずです。

兼続のこの言動・行動は、当時の感覚からすると二重三重に奇妙です。

なぜか。

長政の項でも述べましたが、当時の武家の男性に結婚相手を選ぶ余地はありません。もちろん武将も人間なので誰かを好きになることくらいはありますが、それだけで結婚するのは無理です。ふつうは。

また、龍神の神子は織田家の姫でもあるので、彼女と結婚するということは織田家と直江家が姻族(いんぞく。結婚によってできた親戚)になることを意味します。これは家同士の軍事同盟を結ぶこととイコールです。そんな大事な話は妻の実家の当主(この場合は秀信)に先に相談するものです。ふつうは

そもそもこの兼続、直江家の当主であるにも関わらず、どうして満30歳という当時の武家男子としては結構な年齢になるまで結婚していないのでしょうか。先代の主君である上杉謙信(生涯未婚で子どもは全員養子)をリスペクトしたのかもしれませんが、たいてい適齢期になったら立場を考慮して結婚せざるを得ないはずです。ふつうは

とまあ、このように、ゲームの直江兼続ちょっと変わった人のようです。「ふつう」なんてものはこの世に存在しないのです。秀信の困惑と戸惑いは一体いかばかりだったでしょうか。兼続の「水瓶に溜まりに溜まった水が、瓶がパリンと割れて一気にあふれ出す」みたいな感情表現はたいへん水瓶座的ではあるのですが…。

結婚が何ほどのものぞ

個人的な話になりますが、長政や兼続のように史実で結婚にまつわるエピソードがあり、妻となった人物の記録が詳しく残っているキャラクターを攻略することを、最初はすこし警戒していました。

というのも、近年の時代劇にはよくあることですが、現代の恋愛至上主義的な価値観にマッチするよう、明らかな政略結婚が恋愛結婚にされたり、必要以上に政略結婚が悪く描かれたりすることが多いからです。

たとえばゲームの長政が「一人目の妻とはただ家のために結婚したのだ。愛しているのはお前だけだ」なんてことを言い出したら興醒めです。また、兼続が30歳を超えて未婚でいることを「ネタ」にするような下品な表現――変わり者すぎて嫁が来ないだとか、いい歳なんだから早く結婚しろだとか――があったら不快に感じたでしょう。

遙か7はそういうことをしません。

結婚はしたいやつがすればいい。誰が誰と結婚しようが離婚しようが、はたまた未婚でいようがそいつの勝手。家のために結婚するのもしないのも、自分の意思で決めたらいい。現代人であれ戦国時代人であれ、他人がどうこう口を挟む話ではない――そんなメッセージを感じます。

兼続にとんでもないお願いをされた秀信が、困惑しつつも「しょうがないなこの人たちは…」とばかりに二人を尊重してくれるのはその好例です。実際の戦国時代でどう思われるかはさて置き、遙かなる時空の戦国における兼続はあくまでちょっと変わった人でしかありません。

あの人ちょっと変わってるけど、まあそういう人もいるからね。以上。
それでおしまいです。

これはおそらく意図的なものでしょう。恋愛ゲームというデリケートなコンテンツで、人権やコンプライアンスに注意深く配慮されたシナリオはお見事の一言です。ぜひともFDや続編を期待したいところです。